【100日100話】 052 まだ、穏やかな日々。

   

今日のお題は「かざはな」です。
主人公をどちらにするか、とても悩む組み合わせになりました。

まだ、穏やかな日々。

「ああ、くそっ!」
少年の罵りとともに、ごとん、と氷塊が落下する。握りこぶし大のその氷を拾う前に、長い爪持つ手が伸びた。
「師匠」
「純度が悪いねえ、これじゃ酒にも使えやしない」
手の中の氷を、ためつすがめつする人物は、魔女と呼ばれるに相応しい姿をしていた。すなわち足首までの黒いマント、励起点を隠す長い爪、そしてごろごろと不揃いな水石の連なる、銀鎖の首飾りである。
「俺はちょっとでいいって、でも膨らんじまうんだ」
「暴発なんざ赤子でもやれる。抑え込めなきゃ先はないよ」
氷塊を爪がこつりと叩く、瞬間それは無数の雪片となり宙を舞った。
(やっぱ、師匠はすげえ)
系統の近い使い手だからこそ、少年には師の凄まじさがわかる。
天然の冷気が、術への増幅を勝手にかけてしまうこの季節。羽よりも薄い雪片を生み出すには、それだけ事細かな制御を必要とする。
氷という触媒を使ったとはいえ、それをこともなげに無数に生み出せるのは、身に染み込んだ経験のなせる技だった。
「ま、せめて雪玉くらいはこの冬中に出してもらいたいモンだ」
「んなもん、年が変わる前にやってやるさ!」
主張する少年に、師である魔女はくつくつと笑ったのだった。