【100日100話】100 今日一日を振り返る24時

   

「日記なんて意味ないですよ、労力かかるのに何も変わんなくって」

「誉めないからだよ」

「ほめる? どこを誉めるって言うんです」

「その思考がまずよくない」

「いきなりけなされたんですが」

「批判だよ。いいかい、未来というのは現在イメージしたものからやって来るが、その現在を形作っているのは過去なんだ」

「素直に、過去が未来を作ってる、でいいじゃないですか」

「違う、現在とは解釈なんだ」

「三段跳びはホップからお願いします」

「人は現在にしか居られない。未来も過去も”現在”考えている概念にすぎない」

「当たり前ですね」

「ホップだからね」

「それと日記がどう関係するんです」

「未来をまっさらな現在からイメージできる人間は少ない。過去を気にしないようにと言ったって、現在持っているいろんなイメージは、過去の蓄積から来たものだ。それを使わなければ想像もできない」

「やっぱり過去が未来を作ってるじゃないですか」

「違うね」

「何がです」

「人は過去も未来も、現在の解釈から見ることしかできない。しかし現在にはいられるんだ。ならばどんな過去であろうと、現在の解釈そのものを変えることはできる」

「どっかの自己啓発ブログみたいですよ」

「啓蒙と言ってくれないか」

「つまり、現在ってのは過去の解釈の固まりみたいなものだから、思い直せば変えられるってことですよね」

「だが簡単なことじゃない。だから日記を使うんだ」

「意味なかった、って言ったじゃないですか」

「それはそうだろう、君が意味を付けなかったんだから。誉めもしないし反省もしない、ただの事実を並べたって何にもならない。人は物事に意味を付けて、初めてそれらを活用できるんだ」

「でも誉めるとこなんてないですよ。いつも通り起きて食べて寝ただけです」

「仕事は」

「休みです」

「……まあ、世の中には低血糖になるまで食事ができない人物もいるからね。それに休息も立派に業務の一つだ」

「やった、サボリの許可だ」

「休息のだよ。さて、こうして現在から過去の解釈を変えてみたわけだが、どう思う?」

「食っちゃ寝でも誉められるって素晴らしいですね!」

「自己嫌悪が続くよりはずっとましだからね。当たり前にできることでも、誉めるという解釈がつくことで気分が良くなる。すると、前よりポジティヴな面を考えられるようになるんだ」

「……あ、だからわざわざ現実でいったん区切るんですね! 過去をネガティヴにとらえていると、その解釈のまま未来を見ちゃうけど、ポジティヴにとらえ直せれば、明るい未来を信じられるんだ!」

「もちろんそうは考えられない過去もあるだろう。それでも自分を誉めた証が重なっていくと、それが痛む過去を乗り越える支えになってくれるんだ」

「でも、日記じゃなくてもいいんじゃないですか?」

「今までの事実を全て覚えておいて、いついかなるときも好きなように取り出し、そのたびに解釈をゼロから決める、という振る舞いができるなら問題ないよ」

「日記付けまーす」

「過去に何があろうと、未来にそれを引きずる必要はない。それでも、人は過去に対するイメージからなかなか逃れられるものじゃない――だからこそ、事実を振り返り解釈の記録を残すことで、過去の力を未来に変えられると信じているんだ」

「ところで今日はもう寝ていいですか」

「君のポジティヴさには感心するね」

「だって日付変わっちゃいましたよ」

「24時間の過ごし方」より
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