【再録小説】象の顔なんて見たくもないなんて言うわけにもいかない。

   

包み紙を開けかけた瞬間から、嫌な予感は起こっていた。

「うわ、サイアク」

バンズからソースとマヨネーズが肉ごとどっぷりはみ出して、包み紙がべとべとになっている。

どうやらレタスが丸くかさばって、仲間をみんな追い出したらしい。

照り焼きバーガーなら紙の一部をとめて、ソース受けみたいなところを作っているけれど、この包み紙にはそれもない。

ソースの粘性が高いからって、それに甘えるのはどうかと思うわよ!

この腹立たしさは話すしかないとカメラを立ち上げて――その必要がもうないことを、思い出してしまった。

ノートを共有しよう、と言い出したのは私だった。

今じゃなんて馬鹿なことを言ったものだと思う。

行きたがった場所、おごりやプレゼントの回数、定番の旅行写真に日常の馬鹿話。

普通ならネットにさらすようなことも、さらせないようなことも、このノートになら放り込めた。

画面の向こうに聞こえてる、届いてるって確信してたから。

――それが慢心だったと知らされたのはつい数日前。

共有を切ったら、うざったいまでのばかげた記録が、ごっそり私のもとに残された。

カメラを閉じて、油のしみたポテトを噛み砕く。

そういえば、最後に肉食べたのいつだったっけ。

あの日以来、食欲も料理欲もはたりと絶えて、果物ばかり食べていた。

――どっかにあったな、そんな話。思い出して苦笑する。

「じゃあ肉記念だ」

閉じたばかりのアプリを、もう一度立ち上げた。

本当はわかっているのだ。

いつまでも象の顔を避けてはいられない。

あの中には私が……昔の私が残した全てが詰まっている。

生活のため、思いつきのため、叶えたい夢のため。

あのノートの外にどれだけの冊数が隠れているのか、結局話さずじまいになってしまった。

すれ違って当然だったのかもしれない、と思うには、まだまだ腹が据えかねているのだけど。

シャッターをきる。

撮れた写真は縮小して、あとでタイムラインにでも上げておこう。

コメントを練りつつかじりついた肉は、スパイスで泣きそうに辛かった。

 
 
 
とゆさんの『メモと記録だけでストレスフリーな毎日を続ける仕事術』を読んだら化学反応でこうなった産物。
2013年10月19日、Postach.ioのアカウントにて初出。
……この時点で書いたものがあることにちょっと驚いている。