【100日100話】071 飲まない食わない眠らない、それを止めるのがお仕事です。

   

今日のお題は「なつめ」です。

飲まない食わない眠らない、それを止めるのがお仕事です。

りんごだ、と棗をかじる度に思うのは、実際の味とかよりも、食感が近いせいだと思う。
「商売道具を食べるんじゃない」
「品質チェックというものよ。おいしいものは、それだけ新鮮で美しいでしょ」
「お前の感性はザルすぎる」
むしろワクか、狭いしな、と続けられた意味はさっぱりだけど、バカにされてるくらいはわかるんですからね。
「二個目もーらい」
「バランスを崩すなぁ!」
なんて、でか男に悲鳴上げられても知ったこっちゃない。相手はそもそも絵描き(自称)なニートの上に、目の前にあるのと全然違うもの塗ったくってんだもの。
「おチビには、この絵に繋がる連綿とした西洋美術の歴史などわからんだろうよ」
「わからない人にわからせるのがゲージュツでしょー」
「そこは天才に任せる」
ふんぞって言われてもなあ。
「欲がないんだか向上心がないんだか」
「俺は絵を描ければそれでいーの。食えるだけの金はあるんだから、それでいいだろ」
そう、実はこのニート、就職浪人のいとこを雇えるくらいには金に困っていないのだ。まあそれ私のことなんだけど。
色がただ塗ったくられているようにしか見えないそれは、ネットの向こうにそれなりにファンがいるそうで、六桁七桁で引き取られていく。どうも金持ちと物好きは、いるところにはいるものらしい。
「この棗、終わったら煮ていーい?」
「先にりんごをやってくれ。あれはどうにも偉人に引きずられて無理だ」
「はーい」
食べ物ばかりモデルにするくせに、食べ方を知らないでか男のため、今日もぶかぶかな割烹着は大活躍をするのだった。