【小説】ひとりぼっちのきいろいピエタ -another version-

   

 そのくにではうさぎのみみはあかく、からだはひきしまってしろいものでした。
 そのみみが、いかにあかくつややかで、するどくぴんとはっているか。それがかれらのじまんであり、すばらしさをしめすものでした。

「だからおまえがテストまんてんなわけねーんだよ!」
「ピエタのくせになまいきだぞ!」

 あかいみみのしょうねんたちに、よってたかってせめられるピエタは、まわりとちがうすがたをしていました。
 みみはざらざらとしたきいろ、からだはあおじろくてあせっかき。おまけにみみのさきがちょっとへたれています。
 まわりとあまりにちがうので、ピエタはいつもいじめられていました。

「あっ、ピエタにげんな!」
「おいかけろ!」
「リンゴぞくのハジめ!」

 おとながピエタになげることばを、しょうねんたちもなげました。

 ピエタはかしこいうさぎでした。
 としょかんで、リンゴぞくにはきいろいみみのいちぞくがいることも、しっていたのです。
 けれど、きいろいみみのいちぞくも、しろくひきしまったからだをしていました。
 あおじろいからだのピエタとは、ちがうすがただったのです。

 ぼくは、なにものなんだろう?
 しっているのは、おはかでないていたことだけ。
 おとなはぼくもリンゴぞくだというけれど――ぼくがあまりにちがうから、すてられてしまったのかしら?

「あっ」

 ばっさーーーーーん!

 かんがえごとのせいでしょうか。
 ピエタがなわにつまづいたとたん、まっかないろこがたいりょうにふりそそぎました。
 それはきょねんのおまつりでつかったのこりでした。

「くぉら! わるガキども!」
「わあ、こなやのせっきょうおやじだ!」

 しょうねんたちは、くものこをちらすようににげました。
 ピエタもにげようとしましたが、おじさんにみみをつかまれて、にげられませんでした。

 おじさんは、こながだめになったことをなげき、それはピエタのせいだといい、いたずらずきのしょうねんたちにおこり、それにむじつのピエタをふくめ、わかいころはよかったとためいきをついて、それをりゆうにピエタをなじり、さらにそれらを3かいくりかえしてから、さいごにピエタのふちゅういをしかり、こなのそうじをいいつけて、ようやくいかりがおさまったようでした。

 そのあいだにピエタのからだからは、ぱさりぱさりとこながおちて、ピエタのみみもからだもまだらにあかくなっていました。

 そうじをおえて、ようやくおじさんとわかれたピエタは、こなまみれではとしょかんにいけないことにきづきました。
 しかたなく、とぼとぼといえにむかいます。

 テストでまんてんをとったあとに、いろこをかぶってまだらになるなんて、いったいだれがそうぞうできるでしょう。
 ふとおもいついたピエタがかばんのなかをのぞくと、てすとのかみまでまっかなこながついていました。
 くしゃん、とこなのせいでくしゃみがでました。
 まったくさんざんないちにちです。

「まあ、どうしたの。だいじょうぶ?」

 ふいに、やさしいこえがしました。
 ピエタがびくりとふるえるあいだに、そのうさぎはまっすぐこちらにやってきて、ピエタのかおをぐしぐしふきました。

「あら、あなたとしょかんによくきてくれるこね」

 ピエタはきづきませんでしたが、それはあたらしいとしょかんちょうさんの、おくさんでした。
 ひっこしてきたばかりなので、ピエタのあつかいをしらなかったのです。

 こなをぬぐったピエタのかおは、いろのすじがいくつもついて、こっけいなかめんみたいになりました。
 ふふっとわらいごえがして、ピエタはからだをちぢこまらせました。

「ごめんなさい、わらってしまって。おわびにおふろをかしてあげるわ」

 こうしておふろをかりたピエタは、あかいこなをすっかりおとして、もとのきいろいみみと、あおじろいからだにもどりました。
 かんちょうさんも、おくさんのシエナさんも、みごとなあかいみみをしていたので、ピエタはそのまえにたつために、かおがまっかになるほどゆうきがひつようでした。

「きみは、ナシぞくなんだな」

 ピエタをみて、かんちょうさんがいいました。

「ナシぞく……?」
「ホウスイというくにに、おもにすんでいるいちぞくなの。あなたのようにきいろいみみもいるし、ちゃいろやきみどりのみみのいちぞくもいるのよ」

 ぎもんでいっぱいのピエタに、シエナさんが、おちゃをつぎながらおしえてくれました。
 すすめられたおちゃは、ほのかにあまいあじがしました。

「ぼくは、リンゴぞくだってみんなにいわれました。はやくりっぱなリンゴぞくになれって」
「このくにのほとんどはリンゴぞくだから、おもいちがいもむりはない。とくにここは、ナシぞくはきみだけのようだからな」

 いつのまにか、シエナさんがほんをひらいて、ピエタにみせました。
 そのほんにかかれたナシぞくは、しっとりとしたきいろいみみと、すずやかにしろいからだをしています。

「にてない……」

 おもわずピエタがつぶやくと、「にてます」とシエナさんがいいきりました。

「ナシぞくのすがたがかかれたほんは、としょかんにこれだけだったんだ。それもおくにしまわれたものだった」
「ここにはリンゴぞくばかりだから、リンゴぞくのほんしかそとにでてなかったの」

 しるということはだいじなことなのだ、とシエナさんはいいました。
 どんなにやさしいうさぎでも、しらないことでよけいにあいてをきずつけてしまう。
 だから、リンゴぞくだけでなくいろいろないちぞくのほんを、としょかんにならべるよていなのだと。

「わたしも、リンゴぞくのいないくにでくらしたことがある。そのつらさやさびしさを、すこしでもかるくしてやりたいんだ」

 かんちょうさんはそういって、そっとわらいました。
 ピエタがこくりとのみこんだおちゃは、なぜだかしょっぱいあじがしました。
 ――じぶんがないていることに、ピエタはきがつかなかったのです。

 ピエタをまもってくれるおとなもいました。
 はげましたり、たすけたりしてくれるおとなもいました。
 けれど、ピエタがリンゴぞくだといわれるかなしさに、きがついてくれるおとなは、それまでだれもいなかったのでした。

「あたらしいほんを、たくさんいれなくてはならないわね」
「だがそれにはひとでもひつようだ。てつだってくれるだろうか?」
「はい!」

 ピエタはぼろんぼろんとなきながら、じぶんでもびっくりするほど、おおきなこえでこたえました。

***

読了ありがとうございます。

こちらは以前書いた、「ひとりぼっちのきいろいピエタ」の別バージョンです。

【100日100話】025 ひとりぼっちのきいろいピエタ
今日のお題は「ナシ」です。――そのくにでは、ウサギのからだは白く、みみは紅いものでした。ひとりぼっち...

笑いの要素を追加して書き直してみよう、という無茶ぶりに答えた結果でした。

家庭の事情でお笑いはよく見てきましたが、喜劇的なものは意識して書いたことがなく。

まずコメディを集中的に読んだこと事態が初めてでした。

笑えるものになったかはわかりませんが、全体に軽やかになった気はします。

色々と勉強になりました。