【100日100話】070 嫁入りの夜

   

ぽ…ぽぽ……ぽ…ぽぽ……
緋色に柑子に橙に、丸い光が揺れ列ぶ。増えては消え、また増えては消えとしながらも、ゆらりゆらりと山すそを長く彩った。
「よほど名のあるお方と見える」
ひいふうみいよ、光を数える者たちの中で、訳知り顔がふむと頷く。
「こりゃ来る年は豊作かの」
「秋の取り立てが怖いのう」
「そりゃ皮算用が過ぎるて」
大つごもりの嫁入りは、豪奢であるほど豊作となる。それがこの地の伝承だった。神ならぬ身は洩れこぼれくる灯りの群に、わずかに先を読むだけだが、それでも冬一番の嫁入りは、毎年押せや押せやの賑わいになるのが常だった。
――となれば当然、迷い子のひとりやふたりは出るもので。
あーん、あーんと甲高い声は親を求め、ふらふらと迷いを深くする。それが人の端をふいに過ぎていることに、泣く子供だけが気づかない。
“人の子ぞ”
“陰の子ぞ”
“拐うか”
“貢ぐか”
「やめろ」
闇で蠢く囁きどもに、澄んだ声がきぱりと言い渡す。手足こそ幼い人の形をしておれど、付けた面は白く狐が象られ、その表情は判然としない。
「今宵は――様の祝宴ぞ。御手を煩わせるでない」
蠢くものどもが去ってなお、延々と泣く子は声を上げ続ける。どうやらここまで、何事も気づいてないようで、いっそ肝が太いとも言うべきか。
白い面はしばし迷う後、泣く子の腕をとり歩き出した。さすがにこれには気づいたらしく、しゃくりあげながら「だれ」と問う。
「父御のところへ連れて行ってやる」
「うちは、かかの方がええ」
「……それはだめだ」
「ととが泣くの」
「それでもだめだ」
死者を呼ぶ心は闇を招く。あわいの果てから連れ拐う。幼子ならばなおのことだ。
「お前は育って嫁になれ。母御もそれを望むだろう」
「あなたがうちをもらうの」
「――忘れろ」
人々の発すざわめきに、聞き慣れた父の声が響く。その太い腕にかき抱かれる。
子が振り向けど、そこに狐面はいなかった。

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今日のお題は「きつね火」です。