【100日100話】068 浮気現場(ただし咎めることはできない)

   

告げられたうつくしい月の名は、そのうつくしさゆえに別の意味をはらむ。
「またそんな中二病な名前つけて」
「風流って言え」
その声で猫が逃げそうだ。そう指摘すれば、猫じゃない十六夜だと返される。
こちらをうかがう、銀に近い金色の目の黒猫は、尾の先だけが丸く白い。
「”いざよい”ってのは、ためらうとか躊躇するって意味があるそうでな」
「それどっちも同じ意味」
こいこい、と猫を招きながらの言葉に突っ込み返す。
「ともかくこう、出ようかどうしようか迷って結局出てくるんだけどすぐ隠れる! ってのがもう、”いといざよい”って感じだろ。これしかないなって」
「”いと”は名詞にかからない」
「――何で機嫌悪いんだ?」
心底不思議そうな声へ、ため息で返せたらよかったのに。心底呆れの混ざる声で、追撃できる立場ならば。
「なんでもない」
切り捨てる返しに、より怪訝そうになる気配。
――わかってる、不合理だ。論理も理論もなっちゃない。
たった二音、それすら舌の上でためらう分際で……たかが野良猫に向ける視線に、妬ける自分は知りたくなかった。

今日のお題は「十六夜」です。