【100日100話】009 陸のもの、陸に返され

   

 大波の後は、いろいろなものが流れ着く。

 弟が拾ってきたのもそのひとつだった。

 クラゲみたいに透明だけど食べられない、きらきらが散りばめられた丸い管。

「まあ綺麗だこと」

 ためつすがめつ、母がその透明を動かす度に、きらきらは細かく濃淡を変える。人間の世界では、それをイロが変わると言うらしい。

「これは人の世のものだ。神姫様に差し上げるといい」

 父が言い、母と弟がしぶしぶ頷く。

 神姫様には未婚の雌しかお会いできないため、私が宮まで持って行くことになった。

「まあ、これは浮き輪だわ」

「ウキワ」

「誰かが海で遊んでいてさらわれてしまったのね」

 そう言って神姫様はなぜか、昔を懐かしむような顔をする。

 私たちのように鰭を持たず、鱗の代わりに布切れをまとう神姫様は、この宮の外では生きられない気の毒なお体だ。竜神の子の末裔でありながら、先祖返りしたためだと言われている。

「ありがとう、大事にするわ」

 ゆるやかに微笑まれ、私は再度礼をとった。

――そのとき私は知らなかったのだ。

 神姫様が人の世に恋いこがれていることも、ウキワとやらが宮からの逃亡に役立つものだということも。

 何より、神姫様は本当は純粋な人間であり、竜の老王が番にとさらってきたものであることを。

 それらの喧噪を後に残し、きらきらと濃淡を変える透明な管で、神姫様は地上へと昇ってしまったのだった。

今日のお題は「浮き輪」です。
人魚はなぜだか好きなモチーフです。