【100日100話】092 君を想う16時

   

仕事の終わりまで後一息。今日はあの人との食事だから、どうしたって気合いが入る。
「元気だねー、次これ頼むね」
「は、はいっ」
残業は避けたいから、仕事が来るたびに順番を振り直す。明日でいいものは明日に回してしまおう。
親友、と私を呼んでくれるあの人とやっと会えるのだから。

あの人に恋をしていると気づいたとき、私はその想いを告げないことに決めた。
映画や舞台を見に行けば、ラブシーンで滑稽だと笑う。
明らかにおしゃれをしてきた子を、行きたいからとオタショップに連れて放置する。
短いパンツであぐらをかいて、襟のたれた服を平気で着て。
さばけた性格は誰にも愛されていたし、面倒見がいいから女の子にも慕われていた。けれど決定的なところで、あの人には何かがわからないようだった。
不可解そうな様子で告白を断っているのを見たとき、疑念は確信に変わった。
――あの人は恋に落ちることができないんだ。
興味がないとか目覚めてないとか、ありがちなことよりもっと深く、存在そのものに恋することが組み込まれていない。
それは、同性であることよりもさらに残酷な、どうしようもない壁だった。
恋という関係そのものからして、あの人には価値がわからないのだから。

定時で出られるスケジュールを組んで、念のため再度の根回しもやっておく。
ようやく会えるだけの痛みになった、と思うから、私は向こうからの提案を承諾した。だからこそ自分が逃げられないように、しっかり仕事を終わらせていく。
――あの人はなにを食べるだろうか。向かい合って食べられるだろうか。
そうなれば少しだけ、今夜を越えるのが楽になるような気がした。

「24時間の過ごし方」より
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