【100日100話】001 イカイの契約者

   

 息苦しいほどの闇の中で、淡い金の眼だけが輝いている。

 血のような赤が口を描き、そこから初めて言葉が落ちた。

「ようこそ、俺の”新しい主”」

 灼けるように熱い肩を抱き、破れんばかりの絶叫を咽が上げる中で、その言葉だけがなぜか耳に残る。意味を持つ。

「ああはいはいすぐに治まるから、ちょっとやかましいよ」

 眇めた金の眼がずいと近づいて、輪郭も何も全て消える。

 途端、ぬめりとともに肉塊が舌を撫で蠢いた。

 絶叫は呻きにまで抑えられ、自分のものとは別の意志がこちらの粘膜をなぞっていく。

 逃れようにも頭は強く固定され、残った腕は肩口を圧すので手一杯だ。

 そう、本来は二本あるはずの腕――その片方は、まさに今口内を蹂躙する金眼の手によって切り落とされたのだ。

(ふざけるな)

 悠々と歯列の奥を這い回る肉片に、かっと腹の奥が燃えたぎった。

 瞬の間もなく烈火は脳へ、唯一の解へ打って出る。

「……ッ?!」

 すなわち――ぶち切り前提の噛みつき。

 全身全霊の一撃であった。

 腕が異世界――つまり私の世界――に残っていたために切るしかなかったことも、そのままでは私が二度死んでいたことも、口内で止血と痛み止めの陣を結び、同時に舌を噛み切っての事故がないよう防がれていたことも……

 向こうで死者と見なされた人間を召喚し売りさばく、”オークション”に私が出展されていたことも。

 それに参加し、粗悪品とも評された私を買い取った金眼の彼の事情も。

 全てを知るのは、この悪夢の先のことだった。

これが一番最初に書いたものでした。まさかの始まりからプロローグで力尽きるの図。