【100日100話】011 選べるならば、選んだ路を

   

「ウチミズヤに御座い」

「ウチミズヤに御座い」

 古いメカボイスでそうふれ回るのは、学内を自走する水撒きロボットである。

 イカを模したと思しき三角頭に、10本の足をフルに使って、ばしゃりばしゃりと水を撒いては次の地点へと走っていく。

 何でも途中にいくつかの給水所があり、貯められた雨水を補給しては朝夕一帯に撒いているのだそうだ。

「どっかのレトロゲーの戦略資料がプログラミングされてるらしいぜ」

「工学部は暇人の集まりか?」

「こいつは集合知の結果だから、担当はむしろ情報系だな」

「教え込むのは結局工学の側だろうに」

 美術の時間にプログラミングが組み込まれるような昨今だ。文理などというアナクロな制度は一部の年寄りが使う程度で、学生はより柔軟に自身の学究を定められる。

 それは同時に、学びへの自身の明確な立ち位置を求められることでもあった。

 とはいえ、やはりある程度は古くからの学部名に縛られる。文学の思考で工学をとらえることは、まず文学の視野を押さえているからできることなのだ。その逆もまたしかりである

「なー、やっぱり進路変わんねえの?」

「社会循環学は面白いぞ? 何より稼ぎ先に困らん」

「どーせ理工文化史は潰しきかねーよ」

「しかも近代視覚文化」

「いーだろ面白いんだから! 若干向こう側見えたりするけど!」

「事業登録が無事通ればいいな」

 それは、かつてなら就職と呼ばれただろう。

 今は公務員以外、保証された雇用は存在しない。福祉のほとんどは年金補填を含む生活保護へと回り、雇用保険は都市伝説の一種だ。

「時勢がいくら変わっても、水は気化熱を奪って星を巡る。私はそういう社会の一端を見たいんだ」

「お前絶対文化史や文学の方が向いてんのになあ……」

「そっちこそシステム屋の方が向いているだろうに」

 学びに求めるものは違えど、既にある腕よりも興味の先を求める思考は大差ない。

 ゆえに口では惜しみながら、互いにどこかで諦めているのだ。

「ん、秋風か」

「気化熱での空気変動だろ」

 微風のそよぐ中、二人はいずれ分かれる道の先を見ていた。

今日のお題は「打ち水」です。
イベント関係を調べるうちに、某イカのゲームを思い出さずにはいられませんでした。