【100日100話】080 深夜4時の帰宅

   

勇者は報酬を求めない。
清貧なのではなく、単にこちらで貨幣が使えないからだ。
「たーだいまっとぉ……」
帰還するのは夜の終わり、朝が始まりかける頃。あわいをぬって行き来する生活は、体の丈夫さだけが保証してくれる。
ピィ
「無理してないわよぅ。しかたないじゃない、私レベルの術者が足りないんだから」
ピピィ、ピィ
「向こうで暮らすのはだーめ。獣をさばくところからの生活なんて、そっちこそ現代人には無理ってモンよ」
ピィー……
「アンタこそよそに渡っていいのよ? こんな六畳一間じゃ生きにくいでしょうに」
ピピッ! ピピピッ!
「――そ、あんがと」
ぱてぱて、と僅かな翼で懸命に飛ぶ小さな生き物の、本当の大きさを勇者は知っている。おっさん言葉で敵を倒す自分や麦酒一杯でつぶれる自分を、向こうが知っているのと同じように。
<封じる者>、それは勇者の別称であり役職。彼は魔と化した巨大生物を封じ、勇者の称号を得たとされる。だが、いかようにして封じたのか――かの世界から隔離したのか――その方法は、勇者と生き物しか知らないことだ。
ピピィ
「そーね、先にご飯にしましょっか」
倒すべき存在を肩にのせ、今日も勇者のこちらでの朝が始まった。

「24時間の過ごし方」より
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