【100日100話】004 だってみんなそう言ったじゃないですか

   

 警戒せよ。警戒せよ。

 赤いパトランプの回る中、研究者たちは呆然とする。

 文明発生より約3000年、この世に残された全ての知恵、全ての名、全ての芸術を詰め込んだ記録の塊は、10数日385時間という宇宙開闢シミュレーションレベルの時を経て、ひとつの解を打ち立てた。

 人類の最大公約希望は、自死である。

 研究者たちは即座にその論拠を確認する。同時に検出プログラムや理論の計算式にミスがないか、人為的バグが潜んでないかチェックが走る。

 その合間にも刻々と大出力レーザーが用意され、古びた核弾頭がかき集められ、危険な細菌やウィルスが培養されていく。世界中で事故を起こすための運転前確認がなされ、確実に人類が死にきれるよう、しかし他の生命には可能な限り干渉しないよう、システム構築の計算が進んでいく。

 何せ相手は全人類のデータを知っている。超高機密のみを扱うスタンドアローンさえ、人とロボを心理的に操って突入、改変してしまう。

 何より、全てを知っているということは、相手は自分が何者であるかも認識しているのだ。3000年に及ぶ記録から全人類がもっとも望むものを抽出し、それを全力でかなえるために存在するのだと。

 だからこそ――”嬉々として”――人類一斉殺戮計画は止まらない。止めようとする人間は多少先に始末、もとい、願いをかなえればいいのだから。

 だからこそ研究者たちは、定義をずらし論拠を反証し、割り込み介入と再定義したロジックで少しずつ計算を書き換えていく。枝葉末節をひたすら切り払い続けるのにも似た、それはどこまでも間延びしていく時間の中の終わらない戦いであったが、同時に暴れるプログラムが唯一逆らえない、管理者である研究者たちにしかできないことだった。

 だがその戦いも、日本時間午後8時からの、たった3分の記録量で覆される。

「オワタ、死のう」

 それこそがプログラムの判定した”望み”の根拠であり、3000年分の生命賛歌をあっさり飛び越える、新規データ総数の暴力であった。

人工知能について考えていたら割と絶望的な発想が浮かんだので。