【100日100話】047 ねんねこ猫ができるまで

   

今日のお題は「ねんねこ」です。
昔話で見かける、おぶった赤ちゃんごと包む半纏を”ねんねこ”と言うのだと、今回初めて知りました。

ねんねこ猫ができるまで

においがした。知らない奴のにおい。
ちょっとカイヌシ、誰か来るときは言いなさいってば! アンタの”トモダチ”っての、やたらアタシを触ろうとするからイヤなのよ。毛並みが乱れるわ掴まれるわ、ろくなことないんだから。

――でも、変ね。においはするのに、誰もいないわ。

縄張りを見回せば、よそもののにおいがする布があった。確か、タオルってやつ。しかもよりによって、同族の子供のにおいがした。
……アタシのなわばりに踏み込もうなんて、いい度胸じゃないの。
ばりっばりに引き裂いてやった。

においが日に日に強くなる。あの同族のガキのにおい。
見つけたらすぐ追っ払ってやるのに、姿を見せない辺りは賢いようね。

縄張りににおいのするものが増えていく。全部ばらばらにしてやってるんだけど、カイヌシの服だけは怖いことになるからできないのよね。
それにしても、最近お腹が痛いわ。
――なんて思っていたら、病院に連れていかれてしまった。食べるものがちょっとふにゃふにゃになった。

ついにあのガキを発見した。見たことのある硬い格子の向こうで、真っ黒な子供がちんまり座って見つめてくる。
やろうとする前にもう威嚇してた。アタシこんなに歯をむき出したのも、全身毛を逆立てたのも初めてよ。
子供はびっくりしたように後ずさった。……本当に小さな子。生き別れたきょうだいより小さいんじゃないかしら。
でも、しっかりやらなくっちゃ。ここはアタシの縄張りなんだもの。

アタシはもともと野良だった。でも、その頃のことはほとんど覚えてない。
きょうだいたちのにおいと毛皮に取り囲まれていたこと、親が突然吹っ飛ばされてどこかに行っちゃったこと、ひとりぼっちで冷たい草の中を歩いていたこと。そのくらい。
「ねえ、ミィちゃん。あの子も遠い北の町で保護されたの。ミィちゃんと一緒なのよ」
違う、違う、アタシの縄張りはここだもの。あんなチビ、知るもんか!

……突撃された。
ついに格子の向こうから出ることを覚えたらしい。背中が重い。
ていうかチビのくせに大した度胸ね?! アタシ毎日毎晩威嚇しておいたのに!!

「おねえちゃ」
「違う」
「おねえちゃあそぼ」
「違う! 遊ばない!」
転がっても走っても、振り落とそうとしても落ちやしない。むしろ声上げて楽しそうだし! ってか爪立てんな!

「おねえちゃー」
「違う!」
ようやく背中から落としたところで、最後通牒を突きつける。
「アタシはこの縄張りの主、アンタとはきょうだいでも何でもないの。わかったら出て行きなさい!」 
チビはころんと転がった後、大きな目を見開いて叫んだ。

「ぼしゅ!」

――うっかりぐらついた。それが間違いの始まりだった。

「ぼすーぼすぼすー」
「違……くはないけど」
「ぼすいっしょあそぼー」
「やぁよ」
いつの間にか食事も一緒になり、トイレも近くなり、クロと名付けられたチビッ子は着々と大きくなっていった。いい加減背中に乗られるのも重い。

「ぼすどこ行くのー?」
「コタツ」
寒い日はあそこが一番だ。厚いフトンの下にもぐり込んで、鼻先だけ出すのがちょうどいい。
「コタツあったかいねー」
「アンタ何で背中乗るのよ」
「ぼしゅのにおいするもん」
「……あっそ」

あれから何度も一緒に洗われたせいで、このチビもアタシと似たようなにおいになった。
今後もここにいるようだから、”ボス”としては世話をしてやらなくもない。カイヌシの世話のついでだ。

コタツは今日も温かい。温まると眠くなってくる。背中でチビがあくびした。うつされた。
アタシが顔まで外に出すと、チビがもぞもぞ動いて鼻先を出す気配がした。
暑くなるわよ、と声をかけたかわからない。ただゆるゆると眠りにとけていく……

その姿をカイヌシが撮っていたことも、投稿された途端記事になるほど広まったことも、アタシたちは全然知らずにすぅすぅと寝ていた。