【100日100話】046 見られず、聞かれず、語られない、子供

   

 

畑のパイプに山の土を詰め、種芋を入れてマルチと呼ばれるビニールで覆う。
それもよくある黒一色ではなく、白と黒とで分けられたものだ。
『こうして、長い長い努力の末、自然薯はついに全国で栽培が可能になったのです――』
これ、人間じゃ無理な話だよなあ。
そう考える自分の思考が、可愛くないものだとは知っている。

大人というのは存外簡単に、子供だったことを忘れるものらしい。
七つ八つの自分でさえ、理解する頭も知識もあるのに、赤子相手みたいな言葉ばかり。
ちょっと聞き返せばそれは残酷な目の色をして、こちらを存分に切り刻めると刃や切っ先を見せつける。
……ああ、退屈だ。やってられない。全部投げて図書館にこもっていたい。学校の図書室なんて子供だましで、百冊読んだら飽きてしまった。
『そんなに早く読める訳ないでしょう!』
読めるんだってば。なんなら暗唱しようか? そう言う前に殴られたんだけどさ。

養護学校、という言葉を知ったのは最近だ。
自分は学校としか聞いてなかったから。
自分は知的に遅れていて、社会性だのコミュニケーションだのに特に大きく欠落があるから、そこに通って”きょーいく”されなきゃならないらしい。
なるほど、通りで図書館に一度しか行けなかったはずだ。
ようやく慣れたぼろ服ぼろ靴で、鼻水垂らしてる奴はお呼びでないってことですね。
……自分からしたら、周りがあんまり退屈すぎて、声出す気すら起きないだけなんだけど。
ところで親御さん、その喧嘩まるっと聞こえてますし理解してますよ。
そっちの未熟をこっちのせいにしないでくれます?

畑で育つようになるまでの、長い長い努力の中で、どれほどの数の種芋が、肌に合わずに死んでいったんだろう。
湿気が多すぎたりなさすぎたり、外が暑すぎたり寒すぎたり、そんなちょっとしたことですぐ腐ってしまうのに、突然息苦しい場所に詰め込まれて矯正されて生きなくちゃならなくて。
――わかってるよ、ここで生きていくしかないって。衣食住がとりあえず与えられて、殺されないだけマシなんだって。
わかってるから、もうちょっとだけ、ガキくさくこの身を嘆かせてよ。

今日のお題は「じねんじょ」です。