【100日100話】049 停滞に浮かぶ

   

今日のお題は「寒露」です。
何だかうまく伝えられてないような、気がする。

停滞に浮かぶ

冷たいものが飲めなくなると、秋も終わりかと寂しくなる。暑さ寒さが年々幅をきかせてくる中で、春よりもなお秋は短い。
「モンブランをください。紅茶はホットで」
頼んだ紅茶には蜂蜜をひと匙。本当はひと垂らしだけれど、そこは気分というものだ。窓際の席を陣取って、石畳の通りを見下ろした。
平日の昼間、おやつにもならない昼時は、少しずつ陰りながらもまだ明るさにあふれている。たゆたう水面のような、このまろい光を帯びた時間が、私はとても好きだった。
「ま、無職だからできるんだけどね」
気がつけば口がぼやいている。求職中だからニートではない。逆に言えば、求職中だと証明できればいくらでも暢気でいられるのだと、とある人がブログで笑っていた。
――誰もが理想の仕事をしているわけではないけれど、誰かは幸せに仕事をしている。それも想像よりずっと多く。だったら、こちらが望む働き方にいたるまで、そちらにたかって何が悪い。
するりと読むだけでは、多分に誤解しそうな文面。今のところ炎上していないのは、よほど言葉を選ばなければ検索できない、あのブログの作りのためだろう。
湯気の立つ、甘い紅茶に口をつける。昼には遅く、おやつには早い光を浴びて、モンブランにのるマロングラッセが艶めいた。
「私は……」
夏の終わりから秋が好きで、甘い紅茶とお菓子が好きで、その中でも特にモンブランが好きで、昼過ぎからおやつ手前までの陽の光が好きで、――何を望んでいるのかわからない。わからないから、どこにも行けない。
闇雲に求めた派遣契約が全て切られて、宙ぶらりんになって倒れた日。実家に帰って看病されて、雇用保険を受け取ったら、もう何もしたくなくなった。せめてもの抵抗で外には出るけれど、公園や広場ではもう寒すぎて、店に入り貯金が削れていく。
私は私を慰めているのだろうか。
それとも、虐めているのだろうか。
摘んだマロングラッセは沁みるように甘く、それが自分の好みであることだけは、今は確かだった。