【100日100話】021 みな畑より始まる

   

草いきれにむせたのはほんの数日前の気がするのに、いつのまにか積まれる草は枯れかけが入り交じるようになっていた。

みな畑より始まる

「はいよ、今日もご苦労さん」
いつものように持たされた”バイト代”も、トマトが減ってなすが増えた。きゅうりもまだ青々としているけれど、盛りの頃のごん太さはない。パプリカだけはやたら元気だ。
「そろそろラタトゥイユも終わりかなあ」
「なんじゃい、また”がっぱちょ”みたいなやつか」
「ガスパッチョだよ爺ちゃん」
「また作ってきますよ」
学生の夏休みは長い。それでもすいかを持たされなくなったあたりから、終わりに近づいていることを何となく感じていた。
「最後の日は飯作ってくれんだろ? 俺いっつも楽しみなんだ」
「今度はなすの揚げ浸し作ってくれえや」
「爺ちゃん……こん人は専攻違うって」
「いいですよ、勉強になりますから」
揚げなすなら一緒にカポナータを出すのも面白いかもしれない。ラタトゥイユと一緒に出せば、どちらがどちらだと騒ぎになって、結局旨けりゃいいといういつもの結論に至るのだろう。
西洋家庭料理の専攻として、それは最高の賛辞に当たる。
だからこそこの農業バイトは、うちの専攻で人から人へと口伝えにされていったのかもしれない。
「では、明日もいつもの時間で?」
「おう」
夏の間に当たり前になった挨拶を交わして、見慣れたバス停へ歩いていく。見上げた空は少し高く、うろこ雲がただよっていた。

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