NovelJam1日目の2~貧乳、野営、迷走~

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続・NovelJam1日目

「や、8人集まったのここだよね?」

 お題が発表されるまでの雑談中、カメラとともにふらりと人が現れた。

 漫画家の鈴木みそ先生(@MisoSuzuki)だ。電子書籍で1000万円稼いだという有名な方で、3月に行われるNovelJamアワードの審査員でもある。

 今回は会場の雰囲気をつかむべく、見学にいらしていた。

 鈴木先生は著者候補を8人も集めた澁野さんと、それを勝ち取った私たち著者勢に興味津々のご様子。いいネタだもんね。

 数枚写真を撮って去られたのだが、その後さらっとレポマンガが上がっていたことには驚かされた。

ノベルジャム2018|鈴木みそ|note
ノベルジャム2018

 見事マンガになった澁野さんは、「あの鈴木みそ先生に描いてもらえるなんて……」と感激していた。めっちゃ似てるよ本当。

澁「ところで、飴乃先生は何か書きたいものありますか?」

私「うーん、女の子同士の話っていいですよね」

澁「百合ですか(ガタッ」

私「あとご飯ものを一度書いてみたくて」

澁「百合でご飯――それ、(名前は知ってた有名作品)というのが……」

私「わあお」

 他にも、普段2500字くらいのものばかり書いていることを告げると、つないで連作にすることを提案されたり、チームだから高橋さんの作品と世界設定重ねても面白いかもね、などと話したりしていた。

 そんなこんなで16時、時間を繰り上げてお題が発表されることになる。

 ――自己紹介という名の雑談タイム、もうちょい短くても良かったんじゃないかな。この後作業が目白押しなんだし。

 ともあれようやくお題の発表だ。理事の鷹野さんがしずしずと現れる。

 そのままいすに腰かけ、額を取り出した。

 ……ん?

 あれ?

 これ、以前O元首相が亡くなったときによく見た映像に似てるぞ?

「 平 成 」

「こちらが、お題となります」

 な、なんだってーーーーー?!!

 ていうか文字が逆さまだよ鷹野さん!!!

 スマホの撮影音が響く中、私は本気で呆然としていた。

 だてに100日100話企画を完走したわけではない。

 大抵のお題ならネタを作り出す自信はあった。

 事前準備として、簡単なネタの練り方も学んでいたし、いくつか考えていることもあった。

 が、この瞬間、全てが瓦解する。

 私は頭が真っ白になったまま、(平成って平ら成りって書くんだから貧乳っぽいよね)などと考えていた。

 衝撃の抜け切れぬまま、プロットの話し合いが行われる。

 え、三木一馬さん(@kazuma_miki2016)の講演? 作品を貫くログラインの話と、「お前の妹を書くんだよ」って話しか覚えてない←

 いや一応理由があって、私耳から入る情報の保持能力が先天的に低いので、講演みたいに長い話を聞いていると、雑に消しゴムかけたみたいに情報が細切れになって、気づく前に消滅していくんだよね……ごめんなさい。

 話をプロットに戻す。

澁「平成、を素直に受け取っちゃいけないと思うんですよね」

高「うーん、さて」

嶋「飴乃先生は『平成』から何を考えました?」

私「う」

 後込みしつつ「貧乳」と答えたら「ひwwwwどwwwww」と草を生やされた。私もそう思う。

澁「貧乳って言うと女の子ですよね」

私「いえ、筋肉好きな人たちとかは胸板薄い男性をさして”貧乳”って言ったりしますよ」

 性別を越えた平等は重要である。お前は何を言っているんだ。

 貧乳はおいといて、ひとまず書きたい要素について澁野さんと話し合ってみたものの、いまいちこれといったものがないまま夕飯の時間に。

 その前に宿泊する部屋の鍵が渡されるということなので、最後チームでもあるHチームはおとなしく待っていた。

スタッフ「この中に野営の危険のある人がいまーす」

皆「わあおw」

ス「じゃあ澁野さんはここ……高橋さんはこれ……嶋田さんはこれで」

私(まさか)

ス「飴乃さんごめんなさいね、個室の交渉が難航してるのよ」

私「野営ですか」

ス「取れなかったら相部屋になるから」

 結局予定していた個室が取れずいったんは相部屋が決まったが、スタッフの尽力によって無事個室が確保された。

 よかった……私障害の関係で荷物ぶちまけないと作業できないし、ひとり用の空間がないと人に気遣えなくなるから相部屋きついんだよ……

 ちなみに相部屋組は晩酌したりおしゃべりしたりハグしたりしてたらしい。壁になりたい。

 さて、夕飯を食べて19時。第一チェックポイント「プロットの提出」は22時だ。

 澁野さんには先に高橋さんとの打ち合わせに行ってもらい、私はネタを考える。

 まず、いったん考えた全てをご破算にした。

 メモ帳を出し、「平成」という単語から浮かんだ単語を10個書き出す。

 次に、選んだ単語からまた連想するものを10個書き出す(選ばれたのは貧乳でした)。

 最後に、不思議な単語が生まれるよう組み合わせを考える。

 これが私の学んだ、超ショートショート作成メソッド(の一部)である。

(ボディビルローラー……亡き総理のさらし……着物のガメラ……だめだ、全然出てこない)

「平成」というお題は、あまりに強敵だった。

 そもそも私は、社会的なことに興味が薄い。社会派、と言われる作品を読むこともめったにないし、文学で社会の何かを変えようと燃えることもない。

 ただひたすら、自分の中に落ちてくる物語を形にする。その時書けるものを、精一杯書く。

 この20年、やってきたのはそれだけで、それが私の表現なのだ。

(やせぎすの歴史……まな板とLGBT……卑屈な企業名……元号女子)

 ふ、とある情景が浮かんだ。

 着物の女性とワンピースの女性が、話をしながらご飯を食べている。

 灰色がかった着物の”昭和”と、淡い色の洋服の”平成”が……

(いける?)

 Evernoteに浮かんだアイディアを殴り書きし、残っていた嶋田さんに見てもらう。つかみはいいようだ。

 もうひとつふたつアイディアをひねり出そう、とこの時は思っていたのだが、

嶋「飴乃先生が面白いと思うものを、好きなように書くのが一番いいと思いますよ」

というアドバイスによって、澁野さんが戻るまでひたすら元号女子たちのネタ出しをした。

アイディア集
アイディア集 1 元号4姉妹のカラオケ 明治が先祖元号になる 明治・大正・昭和と平成が食事をする 全員女性 平成が姉になる上で大事なことを3元号から聞いていく 実は百合展開があったり? 来ているものと食事内容によって時代を出す ハレの日? 明治:鯛のお作りなど家での豪華食事 ほっとくとどんどん出てくる 大正:純喫茶でア...

 書き出したアイディアを見た澁野さんは、顔を覆って「うぅー……」と迷うようにうなった。この後、私は複数回にわたってこの声を上げさせることになる。

澁「――っわかりました。とりあえず、いったんこれでプロット書いてみてください」

 ということで、GitHubとやらを駆使する高橋さんの隣でぱたぱた書いていく。

澁「元号擬人化ねー」

嶋「面白そうですよねー」

澁「昭和はヤンデレだな」

嶋「さっきまで平成のファッションの話してて――」

 やばい、前がうるせえ。

 私は耳から聞いたことを覚えておくのは苦手だが、一方で聴覚の感度は人より高い。

 だいたい雑音<話し声や歌声<生活音・生演奏の順で大きく耳に響く上に、話し声っぽい音は全て文字化しようと脳が勝手に働くので、リソースが減り集中を欠いた状態になる。

 たとえるなら、ライブ会場のステージど真ん中で、観客から伴奏からあらゆる音が同時に反響する設定の中、頭の中の消えそうなアイディアを書き留め続けるようなものである。

 ――でもさ、これだけの背景を知らない相手に、黙るようにって頼みづらいじゃん。

 今回結果的にだが、私はチームメンバーに障害者だと伏せた状態でいる。ならば先入観のない状態を維持して、その上での勝負をしてみたい。

 結局私は、活発なトークの響きわたる中でプロットを書き上げた。

 ……今思えば、先天的コミュニケーション障害者の典型的な判断だったなあ、と思うのだけれど。

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次回、悪戦苦闘したプロットが全捨ての危機に?! 迷走の果てに得意技を思い返した時、編集者の一言が歴史を動かす……! お楽しみに。

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時代を司り、歴史を紡いできた女神たち。

ところが、次の時代の幕開けを告げる新しい女神の現出を、素直に喜べない事情があって…!?

元号を大胆に擬人化して描く、エスプリたっぷりの現代の寓話。 

NovelJam2018にて2泊3日で書き上げた物語です。

たそかれ時の女神たち』 飴乃ちはれ(著) 澁野義一(編) 嶋田佳奈子(デザイン)著

Kindle版はこちら。

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