NovelJam2日目の1~限界に挑め、ひきこもり生活~

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NovelJam2日目

 体が縛られたようにがちがちとしながら、いつの間にか記憶が飛んでいた。眠ったのだと思うことにする。

 それにこのくらいなら、まだ限界じゃない。

 昔初めて海外出張に行ったときは緊張のあまり、ベッドの上で手足が勝手に飛び跳ねまくったからな。初めての海外一人旅でもあったんで、あの時はさすがに恐怖を感じた。病院わかんないし。

 支度をして朝食に行く。宿舎から少し遠い食堂は、改装したばかりなのかきれいで新しい。昼と夜は固定メニューで、朝はビュッフェ形式になる。

 早いせいか人がいないので、机の隅でひとり黙々と食べる。キャベツの煮込みと薄いトーストがおいしかった。

 宿舎に戻り、今日は引きこもって書くことを澁野さんに連絡する。10時になったら、そこまでに書いたものを見せることになった。

 時刻は8時過ぎ。

 トランクに埋もれていて、昨日は使えなかった耳栓をはめる。

 同じくトランクで眠っていたポメラは起動済み。

 さあ、勝負だ。

 平成が明治の家を訪れる。

 明治は様々な料理を作って妹を迎え、手伝うように声をかける――

 だめだ、全然進まない。

 新規ファイルを開いてまた書き出す。

 寓話なんだから、「ひとりぼっちのきいろいピエタ」みたいにです・ます調の方がいいかもしれない。

 まず妹が生まれることを書かなきゃダメだよな。

 それを喜べなくて、姉の家を訪れて……

 明治がオチだから昭和からかな。ヤンデレって言われたけど時代のヤンデレってどんなだよ。とりあえず妹に恩売る感じで。

 大正は天然で無責任で毒のある感じにしたいなー。とりあえずイケナイオクスリは出そう。元始女性は、って大正だっけ?

 明治はかっこよく! 凛として懐広いお姉ちゃん! (ネタバレ)する最後の要だからね!

 そんなノリでがしがし書いていくうちに、不安になってきた。 

 これをふくらますのは、難しい気がするぞ……?

 この時は連作を意識していたため、末っ子と姉たちが1対1で会話する形だった。しかし、平成の気が弱いのと、明治以外の姉の、話の聞かなさで、いまいち書く気が乗ってこない。

 ひとまず終わり近くまで書き上げたところで、澁野さんから連絡が入る。原稿を送って、打ち合わせをすることになった。

20180211_元号女神(仮)初稿
20180211_元号女神(仮)初稿 うつくしい朝焼けの光が差したある日、女神は自分の中に妹が宿ったことを知りました。 女神は代々妹を産み、彼女は姉である女神の手を離れて成長していくのです。 それは、喜ばしいことのはずでした。 しかし女神は、妹の宿ったことを憂えます。女神の見下ろす世界は、猥雑で、残酷で、便利だけれどそ...

澁「面白いですよ。方向性は合ってきましたね」

私「ありがとうございます。でも文字数稼げなくて」

澁「資料調べてきたんで、これで描写を増やしましょう。リンク送っときます」

私(いっぱいある……しかも知らないようなのばっかり)

澁「名前はどうにかしたいですねー、寓話なんで。昭和は平成に言いたいこといっぱいあると思うんですよ。大正はアホの子なんで、考えなしに好きなこと言ったり」

私(相変わらず作者よりキャラに詳しい)

澁「あと説教くさいのどうにかしたいですね」

私「ぎゃぶん」

 澁野さんの優秀さに感心しつつ、15時まで初稿に専念するため宿舎に戻る。糖分が足りなかったので、戻りがけに会場でお菓子を補給していった。

 チョコレートをもっしゃもっしゃしながら、考える。

 説教くさいの癖なんだよなあ……どうにか減らせないもんか……

 ひとりひとりに会うと説教始まっちゃうから、4人でわっちゃわっちゃした方が面白いかもしれない。明治の家に相談に行ったら、聞きつけた姉たちが集合してました、みたいな。

 じゃあここで昭和出して、平成に絡ませよう。

 んで、大正が茶々入れて……

 ネタに詰まるたび、澁野さんからの資料を確認しつつ書いていく。

 途中で12時を回ったので、食堂へお昼を食べに行くことにした。

 ――副菜はからあげか。先々週に胃腸炎やってから揚げもの食べてないし、誰かにあげようかな。

 そう思いつつ席に着くと、Fチームの渡鳥右子さん(@akk_wataridori)、w.okadaさん(@dadadachaos)と一緒になった。それぞれ著者とデザイナー担当だ。

 私を含めた3人は顔出しNG組で、そのせいか妙に波長が合う。彼女たちと同じチームでも面白かっただろう。変えないけど。

渡「ネタがかぶってないか心配で心配で……」

私「どんな話なんです?」

渡「枯れた若い女子と乙女なお婆さんのルームシェアものなんですけど」

w「絶対かぶらないですよって言ってるんですよ」

 確かに突飛だ、私からは出ない。

 何となく、審査員の内藤みか先生(@micanaitoh)が好きそうだと思った。

 恋愛が入っていれば大得点を上げます! と初日に豪語していた先生の好みは正直わからないが、その時はそんな気がしたのである。

 ――後に、彼女たちの作品『味噌汁とパン・オ・ショコラ』は、内藤みか賞を獲得する。

 他にも「ひとりぼっちのきいろいピエタ」を誉めてもらったり、互いに好きなゲームの話をこそこそしたりしながら、昼食の時間は過ぎていった。

 からあげはいつの間にか食べていた。

 昼食が終われば13時前。第2チェックポイント・初稿提出までは2時間もない。食休みする暇もなく、書いて書いて書き続ける。

 ふと見ると、メッセージが届いていた。

澁「相談のりますよー」

私「時代特有のおつまみ情報ください!」

 それぞれの女神の時代に合う酒肴を探してもらう間に、またじりじりと書き進める。

 人に絡む酔っぱらいや、悪気のないアホの子を書くのは初めてだ。しかも彼女たちは仲が悪い、というのを表すのに苦慮した。

 しかし、女神たちの会話は心地いい。やはり4人でわちゃわちゃした方が盛り上がる。

 ほぼ白紙から書き直すような形で、エンドマークへと駆け抜けていく。

飴乃ちはれさん初校 - 澁野義一.pdf

私「終わりました! 送り次第会場に向かいます!」

 ポメラをPCにつないでデータを送付し、原稿明け特有の、すっかり語彙が抜け去った頭で支度する。おやつが欲しかったし、正直人恋しいのもちょっとあった。

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次回、苦悩する編集者、困り果てるデザイナー、語彙を失った著者。それでも時間は残酷に進み、ついに編集者は著者に二稿への指示を出す。そこに書かれていたのは、思いもかけない指摘だった……。お楽しみに。

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時代を司り、歴史を紡いできた女神たち。

ところが、次の時代の幕開けを告げる新しい女神の現出を、素直に喜べない事情があって…!?

元号を大胆に擬人化して描く、エスプリたっぷりの現代の寓話。 

NovelJam2018にて2泊3日で書き上げた物語です。

たそかれ時の女神たち』 飴乃ちはれ(著) 澁野義一(編) 嶋田佳奈子(デザイン)著

Kindle版はこちら。

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