NovelJam2日目の3~完成に向かって走れ!~

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続々・NovelJam2日目

 薬を飲んで会場に向かう。澁野さんがさらに苦悩しながら赤を入れているところだった。

 高橋さんのはいつやってるんだろう、と思ったところで、プリントアウトされた原稿が目に入る。

 初稿か二稿かわからないが、ただいま徒歩30分のコンビニで買い物中の高橋さんの作品だ。

 修正に時間がかかりそうなので、読んでみることにした。

 表現のこなれが甘いので、おそらく初稿だろうと思う。

 しかしその時点で、ディストピア&ジュブナイル&ミステリーとして大変面白かった。

 特にブロックチェーン型の掲示板や、質問クエリを投げるシーンなど、サイバー系の小道具が好きな人にはたまらないと思う。私だが。

 オチの流れがあっさりだったので、完成稿までには多分変わるだろうと思われた。

嶋「飴乃先生、タイトルできました?」

私「すみませんまだです」

 澁野さんが「タイトルは最初に決まらなきゃ最後に決まるものですよ」と言っていたとはいえ、デザイナーさんとしてはそこが決まらないと仕事にならないだろう。

 修正がまだかかりそうだったので、待っている間にタイトル案を書き出してみる。しかし、元のセンスがない上に語彙力がさらに死んでいるのでどうしようもない。

 さらに今回、タイトルは16字までという制限が付いているので、どこぞのラノベのような長いタイトルも付けられない。

 いっそ出オチな「元号女神」でもよくね……? とろくでもないことを考え出したところで、嶋田さんの表紙案を見せてもらった。

 いくつかの表紙が画面に並ぶ、だが。

私「これがいいです」

嶋「それ澁野さんも選んだんですよ」

 一番に目をひいたものを指すと、そう返される。表紙には仮タイトルとして「たそがれ時の女神たち」と入っていた。

 これはラフを見せてもらった辺りから既に入っていたもので、嶋田さんが原稿を読んだ感想からつけたらしい。

 ……もうこれでいいんじゃないかな。

私「これ、『たそかれ』ってできます? 『たそかれ時の女神たち』」

嶋「できますよー。タイトルそれでいきますか?」

 たそかれは誰そ彼。誰だろう、あなたは、と呼びかける言葉だ。

 時代の終わりを感じながら、次の妹を待つ女神たちにぴったりだと思った。

 じゃあここ朝焼けから夕焼けにしましょう、と澁野さんが直しに追記した。

IMG_4312 - 澁野義一.JPG
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IMG_4315 - 澁野義一.JPG
IMG_4316 - 澁野義一.JPG

澁「これを直せばもう終わりですよ」

私(やったー)

澁「ただし一カ所、どうしても相談したいところがあります」

私(なんだと)

 帰ってきた高橋さんからホットほうじ茶を受け取りつつ、直された箇所をチェックする。細かい語句は二稿で直します、と言っていた通り、一見真っ赤だがちょっとした手入れですむ程度になっている。

 問題の箇所は青い線で囲まれていた。

 自分でも消化し切れていないところだ。

 私は平成という時代を、個人であることを求めてきた時代だと思っている。

 昭和から続く内憂外患を抱え、それでも数百年の過去に比べれば平穏だった平成という時代は、他人の目よりも自分の心を重視せよ、と強く唱えるようになった時代でもある。

 その考え方に、民衆そのものが変わっていく過渡期の時代。だからこそ、そのニュアンスはどうしても入れたかった。

 だが、私と澁野さんが決めた作品の芯は、「平成だけがしなかったこと」の重視である。その指摘によって静の神を救うシーンこそが、この物語のクライマックスだから。

 せめぎ合った結果が、つながりの悪いセリフ群だ。自分でも御しきれないところを感じていた。

 しかし、いい加減向き合わなくてはならない。

 買ってきてもらったほうじ茶を飲みながら、まず語句の修正をかけていく。時間が惜しいので部屋には戻らず、持参したポメラでがしがしとただ直し続ける。

 隣で高橋さんがタイトルを決めかねている。

 ――全て直し終われば、後は問題のワンシーンだけだ。

ス「おにぎりの差し入れです。早いもの勝ちですよ~」

 おやつとコーヒーに加えて、人数分のコンビニおにぎりが用意される。NovelJamスタッフの、作ることだけに集中させようとする尽力は並大抵ではない。

 ごましゃけおにぎりにかみつきながら、じりじりと焦点を合わせていく。

 その結果は――読んだ人だけのお楽しみ、だ。

 ポメラを澁野さんのPCにつないで提出する。

 高橋さんはタイトル案についてツィッターでアンケートを取っている。

 後に『オートマティック クリミナル』となる作品の表紙候補を見せてもらったり、素材集めに奔走する様を眺めたりしていたが、原稿のチェックは翌朝にすると言われたので部屋に戻ることにした。

 ――ところで澁野さん、お酒買ってきてもらってたけどいつ飲む気なんやろ?

 部屋に戻って一番にお湯を張る。シャワーと湯船では疲労の回復具合が段違いなので、毎日お湯を張ることは決めていた。

 ぶちまけた荷物をより分けるうちに、お湯がたまったので支度をする。体を沈めながら、久方ぶりのようにぼうっとした。

 私がNovelJamに参加を決めたのは、プロと呼ばれる人に自作を評価されたかったからだ。しかし、その中に受賞のことは含まれていなかった。

 理由は単純に、私にすこぶる自信がないからだ。

 私は10年以上続けてきた書き方をリセットし、30前になってゼロから言葉を築き直してきた過去がある。

 無意識にやっていた自分の悪癖を指摘され、自分の心と向き合ううちに、書くという行為に隠されていた自分の傷と本音に絶望し、完膚なきまでに自分の筆を打ち砕いた。

 砕かなければ、命を失う瀬戸際に当時の私はあった。

 何度も何度も泣きながら、砂より細かく打ち砕いて、ようやく私は私の未来を歩こうと決めた。

 だというのに、進み続けた先にあったのは結局、物語。

 私は、相槌すらおぼつかないほどの真っ白な頭で、言葉をひとつひとつ思い出すところから始めなくてはならなかった。

 つむぐ言葉はどこまでも拙く、世界は古今東西の名作で満ちすぎている。

 私は本屋を歩くことが怖くなった。毎日出版される数千冊に、選ばれて並ぶ数万冊に圧倒され、自分がかき消えるような頼りなさを痛感していた。

 数少ない知り合いが、ブログやウェブサイトを通じて読んでくれていることがわずかな支えで、それすらも他作家の持つブクマ6桁の前ではかき消えた。

 私には、小説を書く腕への自信がない。20年以上書き続けたのは事実だが、その3分の2で築いたものは自分から捨てている。

 だからこそ、今の実力をプロの作家に評価されてみたかった。

 ――いっそ折られてしまいたかった。それでも書くだろうけれど。

 この2日、昔のように全力は出せないが、普段出せる分は出し切った。

 サポートさえ受ければ、コンスタントに出せる力量である。

 どうせ普段も5~6割程度しか力を出せない――全力を出すと寝て食べることすらできなくなって壊れる――のだから、評価をもらうならこのくらいの方がいい。

 一応言うが、手を抜いたわけではない。できる最善は尽くしている。それだけは確信があった。

 とはいえ。

 澁野さん&嶋田さんへのお世話になりっぷりを思えば、受賞して貢献したい、という気持ちもわき上がる。

 NovelJamでは、最優秀賞・優秀賞・それぞれの審査員が独断で決めました(ので名前を冠してます)賞、が与えられることになっている。

 このうち、もしも「たそかれ」が受賞できるとしたら、イベントスポンサーでもあるエブリスタの名を冠した賞しかないだろう、と私は思った。

 何となく、他の審査員はこの話が好みじゃなかろう、と思ったのである。

 ……優秀賞より上? とんでもないね!

 ところで、17秒ルールというものをご存じだろうか。

 ある結果を得た、と思いこみ、その時の感情や雰囲気まで感じることを17秒続けると、その結果を得るために1000時間行動したのと同じことになる、というスピリチュアルな話である。

 私は母の友人の占い師から教えてもらったのだが、その筋では有名な話らしい。

 うん、やりました。

 想像するだけで勝手にぽろぽろ泣き出したので、ああ泣いてしまうんやなあ、と思って。

 ろくに挨拶できないだろうから、チームメンバーへの感謝だけは織り込もう、と固く決めて。

 まあ、妄想なんですが。

 ……オチを知ってる人はできすぎた話だと思うかもしれないが、私は神頼みのつもりでこれをやって、風呂から上がる頃にはすっかり忘れていた。一番おたついてるの私だから、ほんとに。

 さて、上がって寝支度をし、ぶちまいた荷物を整理して鞄に詰めた頃には、午前1時を回っていた。

 タイムラインを見れば、会場はまだ活発のようで、いちごの差し入れが行われたらしい。

 た、食べたかったよぅいちごぉ……

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次回、最終稿提出! ……の直前に、大ポカをしてしまって?! 出版準備が進む中、続く寝不足から来る不注意の連鎖がチームを襲う! 果たして無事お披露目できるのか?! お楽しみに。

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時代を司り、歴史を紡いできた女神たち。

ところが、次の時代の幕開けを告げる新しい女神の現出を、素直に喜べない事情があって…!?

元号を大胆に擬人化して描く、エスプリたっぷりの現代の寓話。 

NovelJam2018にて実質1日で書き上げた物語です。

たそかれ時の女神たち』 飴乃ちはれ(著) 澁野義一(編) 嶋田佳奈子(デザイン)著

Kindle版はこちら。

 
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