オーストリア航空での忘れられない話。

 

2011年3月、オーストリア航空の機内食、Beefの場合。それにつけても手ブレがひどい。

 

最初に言っておくと「いい話」ではない。

ただ純粋に、8年近くたっても忘れられない話だ。

 

まずは前提の話をしよう。

私は以前、仕事でウィーンに行ったことがある。

初めての海外!

初めての英語での仕事!

初めての1人で飛行機(14時間)!

このために半年以上も英会話教室に通わせてもらっていたが、準備のときから緊張の極地であった。

 

なんといっても、日本語が通じない環境、というのが想像つかないのだ。

レッスン中こそ英語のみでの受け答えだったが、講師はそれなりに長く日本で暮らしているし、意味を表すのが難しいと、こっそり日本語を使う。

聞くことも、話すことも、完全に英語に頼らざるをえない環境。

日本とは、まったく歴史も文化も異なる世界。

それまでまるで縁のなかった、ウィーンという空間に、私は緊張しないではいられなかったのだ。

 

さて当日、がくがくしながら乗り込んだ国際線は、当然英語のみでのアナウンスだ。

無事に飛び、機内食が配られるときも、もちろん “Beef, chicken or noodle?” である。

そのことはもちろん知っていたし、英会話教室でも練習していた。

 

しかし、目のあたりにするのはまた別だ。

発音が予想以上に速い、しかしここで日本語は頼れない。

なにより、コミュニケーション手段としての英語を、実地で使う機会などそうそうない。

私は緊張と興奮を抱えて、前の人の順番を待っていた。

 

「ぎゅにく、とぉ、とりにくぅ、もしくはソバぁ、どれっにシまスか?」

 

……What?

 

前の席の日本人たちに向け、真っ赤な制服にヘーゼルナッツの瞳をした添乗員さんが、愛想よく舌足らずの言葉をくり出す。

サ行の発音はやっぱり英語っぽいな……いやそうじゃなく! 日本語?!

 

実は、後で知ったことだが、ウィーンの大学では日本語を教えている学部があるそうだ。

その関係か、片言の日本語を話す人は、ウィーンにはちらほらいるのである。

 

しかしこう、実に流暢に英語を話していた人々が、突然日本語を話し出すとギャップが凄まじい。

帰国するまで日本語を聞くことはあるまい、と覚悟していたからなおさらである。

ていうかnoodleって蕎麦のことなんかい。日本以外だとびっくりせんかそれ。

胸中がツッコミの嵐になっている間にも、その添乗員さんがやってくる。

 

「ぎゅにく、とりにくぅ、」

“…Beef, please.”

 

私の発音が良かったとは思わないが、相手がちょっとホッとしたのはわかった。

今思うと、たまによくある「海外の人に英語で話しかけたら日本語で返された」の逆パターンである。

立ってみると思うが、母国語から遠いのに無理しないで、って気持ちには、正直なる。

こっちの言葉を一生懸命話してくれるのはありがたいけど、そっちの言葉で通じるよ、と。

 

以上、さしていい話でもないけれど、忘れられない話。

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