【ポメラCF用SS】そして洗われます。

   

 壁に囲まれた縄張りにはいつも、二足歩行の猫がいる。
 自分よりも大きくて、前足を器用に使って貢物を用意する。自分はこの縄張りのボスなのだから当然である。
 だが、彼奴らの鳴き声はよくわからない。行動もよくわからないが、それ以上に鳴き方が変なのだ。

 〈カリカリ〉と鳴けば食べ物のことである。
 〈ネコカン〉と鳴けば食べ物のことである。
 〈チュール〉と鳴けば旨すぎる食べ物のことである。

 腹に入ればみな同じだと言うのに、なぜ鳴き声を変えるのか。
 しかも、わけのわからない鳴き声を前や後ろにつけるのか。
 まったくもって、理解しがたい。

 彼奴には、他にもこんな鳴き声がある。

 〈イッテキ・マス〉
 これは、縄張りの外に出て狩りをしてくるという意味らしい。
 狩りの獲物は、白い袋に入れて持ち帰ってくるのだが、貢物は持ち帰らないことのほうが多い。しっかりしろ。

 〈タダイマ〉
 こっちは縄張りに戻ったという意味のようだ。
 たまに出入り口で貢物を待っていると、前足で毛皮をむちゃくちゃにされる。違う、貢物をよこさんか。

 〈オカエ・リー〉
 これは今でもわからない。だいたい顔をもまれるが、もまれない時もあるからだ。
 そして寝てるところでやらないでほしい。抗議の視線に気づきもしない。

 〈ナ・ヤッ・テッノ〉
 これは前足で剥いだ彼奴の毛皮にもぐり込んだり、壁で爪をといだりしている時によく鳴く声だ。
 その前に、悲鳴に似た鳴き声を上げることも時々ある。
 襲われたのかと駆けつけると、なぜかこちらの首根っこをつかんで大きな声で鳴く。
 うん、よほど怖かったんだな。わかったから下ろしてくれ。

 〈ニコ〉〈ニコチャ〉〈ニ・コチャーン〉
 どれも自分のことらしい。発音やアクセントがばらばらで、覚えるのに大変苦労した。
 なぜこっちが苦労せねばならんのか。鳴き方をしぼれ。

 他にも他にも、彼奴の鳴き声は無数にあり、その全容は把握できない。
 そもそも目が合えばこと足りるものなのに、どうして彼奴は鳴きまくるのか。
 そういう猫なのか?
 こちらが見つめてもまるで理解しないしな。

「ニャー、ニコチャ~ン」

 呼ばれたのでふり向く、前に彼奴の前足に抱え上げられた。
 どうでもいいが〈ニャー〉の意味がさっぱりわからない。何にでもつく上に調子や発音が毎回違う。おまけに脈絡がまったくない。一体何を伝えたいんだ。

「ヨ・シヨシ、イイ・コニシテ・ネー」

 強めに体を押さえ込まれる。遠くから嫌な音が聞こえる。
 ボボボボボ、と聞こえてくるのは、熱い水を大きな入れ物にためる音ではなかったか?
 い、いやだ、また謎のにおいがする白いもこもこに覆われて、熱い大雨をたたきつけられるのは!

 ナ・ヤッ・テッノ!
 ナ・ヤッ・テッノ!

 思わず上がった声は、彼奴の鳴き声と同じもの。

「ハイ・ハイ。アバレ・ナイデ・ネー」

 抱く力を強くされ、そのまま水音のもとへと連れていかれる。
 なんで通じないんだ、お前の鳴き方だろう!!!!!

こちらは、ポメラ購入のためのクラウドファンディング(もどき)企画にて、リクエストをいただいたものです。

詳細

https://chihare-ameno.com/blog/pomera_cf

リクエスト
「人間の言葉を話されても理解できないんだけど、とりあえずこうかと考える猫(猫視点)」

人でないものの一人称、私は猫が得意かもしれません。他にも挑戦はしたいです。

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