【100日100話】069 変態論

   

アシカは猫の親戚である。遠いところで別れた後、海に向かったのがアシカになり、陸に向かったのが猫になった。
「だからアシカには肉球がないんだ。海では歩く必要がないからね」
「人の手揉みながらでなかったら多少はまともに聞けたんだがな」
「やだなあ、マッサージは名目だよ?」
「本音だだ漏れてんぞ」
ぐいぐいと、親指が手のひらを押しなでる。特に胼胝(たこ)のできている辺りを念入りに、執拗なほどに。
「肉球はこの世を戦う証なのさ」
「1段目から飛ばさずに言え」
「お客さん剣胼胝増えましたねえ」
「揉むなっつーに」
「――肉球の外は厚い角質層、中は弾力のある繊維と脂肪でできている。陸地で生きていくために、ある種の獣たちはそれを必要としたんだ」
宙を舞い、地を駆け、獲物を狩る。
木を登り、崖を飛び、縄張りを歩き、時に戦う。
四つ足を打ちつけ、叩いて過ごすために、摩擦や衝撃を吸収する必要があった。
獣たちにとっては必然でしかなく、それに癒やしなどを見出すのは手前勝手な人間だけだ。
「人だって武器を握れば、必要なだけ皮は厚くなる。胼胝なんかはその典型だ。その手を振るい、地に足をつけ続けると決めて以来、特定の皮膚の硬さと柔さは世を戦う証になったってわけさ」
「……要するに」
「ん?」
「お前は変態なんだな」
「理解が遠すぎて何よりだよ」

今日のお題は「にくきゅう」です。
作者にもまさかの理論展開だよ。

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