【100日100話】048 牡蠣の海

   

今日のお題は「牡蠣」です。
地域選択は地元だからです……呉とか宇品とかいろんなところに牡蠣筏はあるよ……

牡蠣の海

地御前の海から宮城は遠い。
気仙沼の海はもっと遠い。
それでも海面を眺めれば、通じることがひとつある。
「――あれ全部、流されてしもぅたんじゃぞ」

広島の牡蠣は生産量日本一を誇る。その数1万トン以上、シェアは6割に迫っている。
地御前という土地もまた、その数に貢献する地域のひとつだ。牡蠣好きならば「ジゴゼン」という音だけで旨みたっぷりの味を連想できる……かは知らないが、美味で有名な海ではある。

「じゃけぇこそ、わしらがせんにゃならんのじゃ!」
「向こうはちぃとやり方が違う。その辺も考えて行かにゃ」
「食べる者の減るんが心配じゃのぉ」

自然、地御前やその近隣に住む子供達は、牡蠣筏を当たり前に見て育つ。彼らにとって、海とは島々がいくつも並び、牡蠣筏の平行線が無数に浮かぶ場所なのだ。水平線なぞ隙間をぬった、かすかな場所しか存在しない。
島の薄青に海の青、木々の緑に囲まれた、無数に並ぶ黒棒の列。
故郷、というもののイメージを、子供らはそう覚えていく。

「役所は気仙沼に200台分寄付するそうな」
「会長がボランティア募っとった」
「牡蠣剥きの場所もいるけぇのぅ」

――2011年3月11日、地震による津波のため、宮城の牡蠣養殖場の全てが大破、牡蠣業者は壊滅に等しい損害を負う。その被害額、およそ274億円。

宮城は元々、大量の牡蠣を育てられるような、穏やかな海は数少ない。それでも日々何時間もその手で牡蠣を剥き、金を借りては資材を組む。そうして生産量2位にまで数を伸ばしてきたのである。
が、津波はそれを根こそぎにした。筏、はえ縄、牡蠣打ち場……その全てがほんのわずかな間で、ゼロまで奪われてしまったのだ。
――故郷の景色も諸共に。

「時間はなぁで」
「すぐにも夏じゃ。急がにゃ」
「急がにゃ!」

広島から宮城は遠く、地御前から気仙沼は見えない。
それでも海を眺めれば、ふいに通ずることがある。
「――あの黒いとこ全部、流されてしもうたんじゃぞ」

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