【100日100話】054 理想的オーダーメイド

   

今日のお題は「セーター」です。
自分は指編みでどうにかマフラー作ったくらいの経験しかないので、セーターまで編める人は素直に尊敬します。

理想的オーダーメイド

まだいない。
まだ見つからない。
ずっとずっと探しているのに。
私の理想の――

「またゲージ編むだけで終わったの?」
「クロッチと言って」
「似たようなもんじゃないの」
言いながら返されたものにタグをつける。毛糸の情報、編み針の号、全体のサイズと編み目の数。特に最後のは数えたときに書いておかないと、絶対忘れて後で苦労することになる。
「毛糸見本がまた一枚、と。うちとしちゃ助かるけどさ」
「また新作の赤が出たら知らせて」
美しい暁の色。それにふさわしい熱を帯びた、全ての目をひきつけるただ一点。
その糸がまず決まらなければ、空や海や重機などの糸を見つけることは難しい。
「アンタなら、編む前からわかりそうなもんなのにね」
「ある程度の選別はできるわ。でも、絞った後は編んでみないと駄目。いくらでも色味は変わるもの」
同じ毛糸から、同じものを編み出せるのは機械だけだ。
糸の太さだけでなく、編み方の好みや癖によって、同じ大きさのニットでも編み目の数はかなり変わる。詰まった編み方をするなら目は増えるし、ふわっとゆるく編めばその分目は減るだろう。結果として、風合いも少しずつ変わっていく。
だからこそ、クロッチは自分と毛糸の関係を見る試金石となる。2才から編み物をしていた天才級のニッターでさえ、クロッチを編むまではそれが求める毛糸かわからないという。そのくらい千差万別なのだ。
「”妻の愛した名画を着たい”、ね……相変わらず、物好きばっか相手にしてんのね」
「相応のものはいただいてるわ」
「ちゃんと食べなさいよ。アンタすぐ寝るか編むかになるんだから」
「サンドウィッチ伯爵に感謝ね」
「……カレーと煮物持ち込まれたくなかったら、もちょっとまともなもの食べなさい」
捨て台詞に肩をすくめる。毛糸に限らず、においのつくものは手芸用品には御法度だ。
「努力はするわ。――余力があればね」

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