【100日100話】025 ひとりぼっちのきいろいピエタ

   

今日のお題は「ナシ」です。
――そのくにでは、ウサギのからだは白く、みみは紅いものでした。

ひとりぼっちのきいろいピエタ

そのくにでは、ウサギのからだは白く、みみは紅いものでした。
からだがいかにかたく引きしまり、みみがいかにつややかで、ピンとさきまで鋭いか、それがウサギたちの美しさであり自慢なのでした。

「まあおくさま、きょうもよいおみみで」
「うふふ、はやりのおみせできっていただきましたの」
「それはすばらしゅうございます」

そんなくにで、ピエタはなぜか、きいろいみみでうまれました。
からだはあせっかきであおじろい。みみのさきはもろもろとくずれてしまう。なによりそのみみがきいろいピエタは、まわりからいじめられてばかりでした。

「うわ、だっせぇ!」
「だっせぇきいろ! そんざいすんじゃねーよ!」
「やめなさい! ピエタだってりっぱにリンゴ族ですよ!」

ピエタはいじめられることそのものもつらかったのです。
しかしそれとおなじくらい、おとなのことばもつらいものでした。
ピエタはリンゴ族ではないと、じぶんでしっていたからです。

すうねんまえ、はかばのすみでひろわれたのが、ピエタでした。
そのときはまだちいさすぎて、みみのいろもわかりませんでした。
ところがすこしおおきくなって、ピエタのみみのいろがきいろだとわかると、おとなはふたつにわかれました。

こどもにまざって、わるくちをぽんぽんなげてくるおとなと。
ピエタはリンゴ族だと、なんどもいいきかせてくるおとなに。

そのひも、いつものようにあさからいじめられ、おとなにいいきかされてゆうがたになりました。
さいごにとどめのようにどろみずをかぶせられ、ピエタはくちのなかのすなをはきながら、とぼとぼとひとりあるきます。

「まあ、どうしたの」

ひめいのようなその声を、ピエタはさいしょ、じぶんにむけたものだときづきませんでした。
ピエタがかおをあげると、そこにはあたらしい図書館のせんせいと、そのおくさんがいたのでした。
ひっこしてきたばかりだったので、ピエタのことを――そのあつかいを――まったくしらなかったのです。

ピエタはあたたかいおふろにいれられ、いいにおいのするせっけんをおしつけられて、すっかりもとのきいろいみみにもどりました。
せんせいもそのおくさんも、じつに引きしまった白いからだと、つややかな紅いみみをもっていたので、ピエタはせんせいのふくをかりているのが、とてもいたたまれないきもちでした。

「きなさい」

せんせいがピエタをてまねきました。

「あなたはナシ族みたいにきれいなみみをしているのね」

あまいおちゃをだしてくれたおくさん――シエナさんがそういいました。

「むかしむかし、ホウスイというくにから、このくににやってきたウサギたちがいるの。かれらはナシ族をなのり、いにしえのおうさまに、たくさんのたからをもたらしたというわ」

リンゴ族のほかにもウサギがいる。
ピエタにとって、それはたいへんにおどろくことでした。

「しらなかった?」

たのしそうなシエナさんに、ピエタはちいさくうなずきました。

「わたしたちは、このくにしかしらないウサギのこたちに知識をとどけにきたの。ナシ族のこともそのひとつ」

知識はちからなのだとシエナさんはいいました。
どんなにやさしいウサギでも、ただしらないというだけで、すれちがったりこばんだり、まちがったことをしてしまう。
それはとてもかなしいことなのだと。

「学ぶことで、せかいはうんとひろくなるのよ」

ピエタはせかいということばも、とかいというばしょもしりませんでした。
このくにのそとにはもっといろいろなくにがあり、そこではリンゴ族もナシ族も、ほかのさまざまな一族もたくさんいるのだと、シエナさんは本をひろげおしえてくれました。

「ゆうはんのじかんだ」

とうとつに、図書館のせんせいがおもおもしくつげました。いつのまにか、あたりはまっくらになっています。

「まあ、たいへん。すぐにしたくをしなくっちゃ」
「さらを3まいよういしなさい。したくはわたしがする」
「あの、ぼくは」

ピエタはすぐかえるとつげようとしましたが、そのまえにせんせいがいいました。

「友人をひきとめて食卓にまねかぬなど、われわれのさほうにはんする」
「そうよ、たべていらっしゃい。これも学びのうちだもの」

ピエタはこえにつまり、ほろほろとおおつぶのなみだをこぼしました。

***

ずっとあとで、ピエタはせんせいとシエナさんにききました。
どろだらけのみしらぬこどもに、どうしてしんせつにしてくれたのかと。
すると、おおきくわらってこうかえされたのです。
「ほんとうの友達は、ひとりぼっちのときこそであうものだ」
と。

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