【100日100話】007 減りゆく夏とポニーテイル

   

 発汗、血流、乾燥速度、全て真夏の反応。
 けれども今日からは残暑なのだ、とマスターは言う。
 
「残り物の暑さですか」
「暑さの残りが減っていく、と言った方が近いだろうね」
 
 君のポニーテイルも残り今しばらくと言ったところだ、と言いながら、マスターは私の放熱索――頭部にある無数の糸状装置――を結いあげる。
 私のように長い”髪”を持つ人型は、暑い季節にはまとめて結いあげておかないと違和感があるらしい。
 
 鏡に映る私――HFC-11(イレブン)は、球型の頭に円い目をつけた、簡略式の人型である。
 人間らしい言葉に直すならば、丸い頭に目鼻を付けた、子供用の人形の姿が最も近い。手足も先が丸くなっていて、物をつかむにはちょっとした電力を使う。この力はマスターの商売道具なのでここでは秘密。
 
「さあ、できた」
「ありがとうございます、マスター」
 
 両腕の先を揃えてお辞儀。放熱索は熱がこもり過ぎないよう、絶妙なバランスでまとめられている。
 マスターは実に器用で優秀だ、人型に関することなら。
 
「それではマスター、暑さの残るうちに、具体的には今後3週間のメニューをそうめん主体に固定いたします」
「え、毎日?」
「マスターが去年も一昨年も買い込んだ乾麺が今年になって何故か増殖しているのです。いくら日持ちがするとはいえ、早めに片付けることを提案します。端的に言って、場所ふさぎです」
「わかったわかった、任せるよ」
 
 こうして、私とマスターの一日は今日も始まるのでした。
 
 
 
今日のお題は「残暑」です。
我が家のそうめんは結局今年一度も食べられませんでした。
暑すぎたともいう。
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