【ポメラCF用SS】情熱のスキレット

   

 魔女を名乗っていた遠縁が亡くなり、遺品が私にも届けられた。
 『紅玉』と銘打たれたその小さなスキレットは、名前の通りに全体が紅く、朝焼けの光を濃縮して形作ったような姿だった。
 
「金属じゃないのかな、石? ともちょっと違う?」
 
 いくらコンロで温めても熱くならないスキレットに、首をかしげて包みを再度あさる。すると、一枚の紙片が出てきた。
 
『これは、持ち主の情熱で調理する魔法道具です』
 
 ――ただのガラクタじゃないか。
 遺品だけに下手に手放すこともできず、押し入れの中に突っ込んだ。
 
 翌日は普通に仕事である。
 普通、というものが崩れて久しい現代だけれど、私はわりと平凡に、ブラックと言いきれない会社に搾取されている。
 
 ブラック企業を死ぬ気で脱出しても、ホワイト企業に転職できる確率は、天国に行く確率よりも低い。ほとんどはグレーな会社が占めていて、利益から経営のための取り分をとったら、社員に回る分なんて残っていないところがほとんどだ。
 それでも残業代が出て、有休をとれる分だけ、うちの会社はマシだった。基本給は生活保護ぎりぎりくらいまで低いけど。
 
「お疲れ様です」
「お疲れ様でーす」
 
 当然みんな残業で稼いでいたのだけど、昨今の勤労改革で、残業時間数は制限されてしまった。いまさら体質を改められるわけもなく、大半の社員がサビ残で業務を終わらせている。
 私もそのひとりだ。
 
 仕事仕事でよれよれになって、業者や顧客からのクレームにペコペコして、上司の八つ当たりをはいはいいなして、事務処理を遅くに回していたら、終業後なんて寝ることしか考えられなくなる。
 お風呂どころか着替えすらおっくうになる毎日に、情熱の挟み込む隙間なんてあるわけがない。
 
「――焦げくさい?」
 
 家に帰ると、かすかに焦げるにおいがした。アイロンをかけるとき、同じ場所に少し長く置いているとただよってくる、あのにおいだ。
 最後に使ったときに、電源を切り忘れたまましまったのだろうか。それとも別のもの? 
 とにかく、火事になる前に探し出さなくては。
 
 そうしてにおいをたどった先には、ものをあれこれ投げ込んだ押し入れがあった。
 ……まさかね?
 
 心当たりの場所を探ってみれば、細長い持ち手に手が当たる。
 引っ張り出せば、紅いスキレットが現れる。
 
「勝手に熱を出すとか、ホントにガラクタ――」
 
 つぶやいて、ふと手をかざす。 
 
『これは、持ち主の情熱で調理する魔法道具です』
 
 顔を映すほど平らな紅は、ほのかに温かかった。
 
 

*****

こちらは、ポメラ購入のためのクラウドファンディング(もどき)企画にて、リクエストをいただいたものです。

詳細

https://chihare-ameno.com/blog/pomera_cf

リクエスト
「フライパンとルビーをお題に、現代日本を舞台にした少し不思議SS希望。登場人物は15歳以上60歳未満で」
 
フライパンって言葉を使いたくなくて頑張りました。スキレット可愛いよね。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
スポンサーリンク