【100日100話】020 かかしと逆賊の婚礼にて

   

今日のお題は「案山子」です。
えせ西洋貴族もの書くのが好きなんだ。

かかしと逆賊の婚礼にて

臣に降っただけまだマシだ、と言われる(元)王子様がいる。
外見だけなら眉目秀麗、屈託ない笑顔は衛生兵を呼ぶレベル。おかげでメイドは貧血続きだったとか。
もっとも、メイドの入れ替えが激しかったのは鼻血、もとい名誉ある負傷のせいばかりでない。

この(元)王子――面倒だしスフィア様でいこう――女癖が大変悪かった。一体どうして出会うのやら、下っ端の子を次から次へと食らっては、城の外へと放り出す。他にも無銭飲食に器物損壊は数知れず、中にはスリを行ったという話まである。
とにかく、スフィア様は王族でありながら、王家の威信や誇りというものを、さっぱり解せぬ方であるらしい。

「ついたあだ名が『かかしの王子』――逆賊の娘を預からせるくらいでちょうどいい、か」
「姫、チェンカ様、ご婚礼の席なのにそのような」

漆黒のドレスをさばいて立ち上がる。お付きのマリアが悲しそうな顔をした。
暗闇は始まりと終わりの色。全てを飲み込む覚悟の色は、私の緋の髪によく映える。誇り高いが立ち回りの下手な、父から受け継いだ色だった。

「マリア、私はこの揃いの瞳にかけて、砂漠からお母様をさらったお父様を信じているわ。恋の勢いでもなきゃ大胆なことはできない人よ」
悲しげな黄灰色の瞳に微笑んでみせる――私は恋を知らないけれど。

「揃いの瞳にかけて、チェンカ様の御身は必ずお護りいたします」
「ありがとう。お前の身も大事にしてね」
いつものように見つめ合う、その瞬間だった。

べろん、としか言いようのない形で、逆さまの男が割り込んできたのは。

「――やぁ、実に麗しいとこ悪いんだけどさ。引っかかっちゃったから下ろしてくれない?」

まず目にしたのは鮮やかな金。そして煌めく蒼玉の眼。夜明けを示す白の衣装は、あちこちが汚れてしまっている。

「姫様、お下がりください!」
「人呼びたくないんだよねーお互いのためにさ。だから君たちに下ろしてもらえると助かる」

子供のように笑うその顔は、なるほど神話画の青年じみて美しい。しかしあまりに綺麗すぎて、私は逆に不安を覚えた。――天井からぶら下がっているせいばかりでなく。

「……スフィア様、成婚の迎えとしては庶民的だと思いますわ」
「あ、わかる? 最近流行りらしいんだよねーすぐ飽きられそうだけど」

マリアに頼んで下ろしてもらい、ようやく正位置に直ったスフィア様は、肖像画よりもひょろ長く見えた。かかしの由来はここからかもしれない、そう思うほど細く背が高い。

「貴女が気さくな人でよかった。付き人を挟むんじゃ密談もやりづらいからね」
「……社交デビューはまだですから」

言い訳したものの、『お母様の眼』をするマリアの視線が痛い。身分ある淑女はたとえ数刻後の夫君であっても、家族以外に直接話しかけてはいけないのだ。

「密談とは、何のことでしょうか」

私の前に出たマリアの言葉に、スフィア様は飄々と告げた。

「貴女を逃がす計画について」

――まるで、繰り返し慣れた台詞かのように。

スポンサーリンク