【100日100話】089 13時、本人の知らないところで

   

全国から人が集まる大学では、みなみなが「故郷の味」との差に驚く。
いわく、米がまずい。魚がまずい。肉はうまい。野菜が安いまたは高い。
彼らの訴えるそんな違和感が、私にはさっぱりわからなかった。
今日、ごく当たり前にトマトのパスタを口にするまでは。

「結婚しましょう」
「どうしてそうなった」
「今日パスタを食べたのよ」
「ああ、弁当忘れたもんな。卵がきれいに焼けてたのに」
「違和感があったの」
「……腹でも壊したか?」

私は転校を繰り返したおかげで、故郷の味というものを持たない。
父母は多忙かつ料理下手で、総菜や冷凍食品が普通だったし、保存料も添加物もさして気にしない人たちだった。それより如何に私の学費を稼ぎ、食べさせるかに腐心していた。
総菜の味はどれも似たり寄ったりで、山脈を越えても味の濃さくらいしか変わらない。だから私の舌は全体に、売り物の味というものに慣れきっていた。
いたはずだった。

「違うのよ」
「違和感だからな」
「違うって思ったの。売り物なのに」
「久しぶりだからじゃないか?」
「そうよ。あなた以外が作ったものは久々だった。いつの間にか私、あなた味に染め変えられちゃってたのよ」

だから結婚しましょう、と続けたが、咽せている当人に聞こえたかはわからない。

「24時間の過ごし方」より
提供サイト:TOY
http://toy.ohuda.com/

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