【100日100話】084 8時、いつもと違う朝食

   

どろりとした黒っぽい粥に、きつい塩漬け野菜が多少。それが別料金の朝飯だった。村を出たことを悔いそうになる程度には、簡素にすぎる飯である。
「食べつけないものでもありましたか」
匙の進まないのを見たらしい相手が言った。
「いや……あんたは?」
「大抵のものは食べられます」
根無しなので、と言ってフードを深くかぶり直す。小柄な体をすっぽりとおおうその下に、人と異なる耳があることを、ここでは彼だけが知っていた。
根無しとはエルフたちの間での名称だ。人の世ではハーフエルフと呼び、定住することを忌み嫌う。しかしその一方で、後くされのない旅人ならば、その知恵や魔力を当てに頼られることも多かった。
「食べないともちませんよ」
「別に嫌ってわけじゃない」
ふと匙を止め思い返していただけのことを、子供じみた好き嫌いと解釈されるのはさすがに腹が立つ。
しかしなぜか、相手は意外そうな顔をした。
「嫌ではないのですか」
「何が」
「……私ですよ?」
「だから何の話だ」
小さな頭を傾げられても、実家の子牛を思い出すだけである。そういえば相手の目も子牛のようにつぶらだった。
「あなたは変わった方です」
「話がさっぱり見えん。連れなんだから飯ぐらい一緒になるだろう」
「それが変わっているのです」
くすくすと笑う相手に、彼はなげやりに匙を粥へとつっこんだ。
――どれほど長いつきあいでも、ハーフエルフとは食を共にしない。それは定住を許す行為になりうるから。
そんな慣習があることを、田舎の村にいた彼はまだ知らない。

 
「24時間の過ごし方」より
提供サイト:TOY
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