【100日100話】058 彼らは知らず

   

師走というばかりでなく、社会人なら2日3日はたやすく過ぎる。4kgもある肉塊を漬け込むのと同じ時間だというのに、学生でいたあの頃の方がずっと1日が長かったように思う。
――ひとぉつ、解凍に金物を使うべからずこと!
解凍の器にはプラスチックを使え、レシピの待機指示に逆らうな、肉は焼けてもすぐ食うな。歴代のOBたちによるローストターキーの知恵は、覚え書きのような口伝によって、後輩たちに伝えられていた。
まだ通販も存在しない頃から七面鳥を食べられたのは、ひとえに卸もする肉屋が近くにあったことと、留学生の多さ故だ。イベント数日前となれば、また鳥の丸焼きか、とこぼしながらも車を回し、手持ちのオーブンに入るぎりぎりのサイズを複数買い込む。山のような香味野菜ともども、白くかちかちに凍った4kgの肉塊たちがトランクにごろごろと詰め込まれていく様は、実にばかばかしく愉快だった。
戻れば早速解凍からの仕込み作業である。自動製氷機を持つ者は崇敬を集め、オーブンレンジすら持たない者は水炊き係に回される。そんな場合分けができるほどに、丸焼きづくりはサークルの年中行事となっていた。……それだけ相手のいない者が多かったということなのだが。
一生分と思えるほどの香味野菜を刻み、肉を漬け込む2日の間に米を大量に炊いておく。そして三生分かと思うほどのバターライスを大蒜と炒め続けるのだ。最後には髪まで大蒜くさくなるというのに、皆どれだけ暇だったのか。
――いや、〆切間際の文系4年や、実験を抜け出した理系院生も混ざっていたか。
つまるところ、祭の好きな連中だったのだ。その勢いについていけない新人が増え、ついにサークルが廃止されてしまうまで、肉塊丸焼きの狂乱は続いた。今となっては、懐かしむ思い出の一片である……

「ひとぉつ、解凍に金物を使うべからずこと!」
突然拾った声に思わず振り返る。そこには無数のエコバッグを提げた若者たちが群れ歩いていた。ナイロン製らしい袋はどれも限界を叫ぶようにふくれ、その重みを全身で示している。

「何で解凍する? バケツ?」
「とりあえず100均じゃね」
「ついでに銀紙な」
聞こえてくるのは、思わず足を止めてしまうほどの、懐かしいあの頃の会話である。数も人数も少ないが、まさにあの頃の光景だった。
――後に調べたところ、サークルの口伝とレシピが人数ともども匿名掲示板に投稿され、そのばかげた人数により拡散されていたらしかった。

今日のお題は「七面鳥」です。自分の学生時代の思い出も少々。
三人称にするつもりが今回も一人称になってしまいました。そろそろ書き方が思い出せないぜ。

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