【100日100話】057 朱紅の想い出

   

幼い頃、寒い日にはよくゆたんぽを用意してもらった。
暖炉に埋めた、真っ赤に燃える”火の石”を、ゆたんぽの口からひとつ落とす。炎を浴び、煌々と燃える”火の石”は、私にとってどんな貴石よりも心惹かれる神秘だった。
しかしそれも束の間、母はきゅっとゆたんぽの蓋を閉めて、厚い布の袋に入れてしまう。それを寝床の足下に入れておけば、寒くても暖かく眠れるという寸法だ。
「さあ、小さな淑女殿。おやすみの支度はできたかな」
父の低い声がそう告げて、私は軽々と暖炉の前から遠ざけられる。幼い私にはそれがとても不満だった。朝が来れば黒く眠ってしまう”火の石”が、炎の中で真っ赤に輝きはじめる姿を、最後まで見届けることができないから。
いつか、すべての”石”が赤く神秘的に輝く姿を、最後まで見届けることが幼い私の願いだった。
――そんなことをふと思い出したのは、ある子供の作文を読んだからだ。
今では懐古趣味と言われるような”石”のゆたんぽを使う、祖父母と孫のある一日。珍しいゆたんぽに孫は好奇心を刺激され、長い交渉の末に、ついに最後の石まで見届ける夜を祖父母から勝ち取る。そしてその夜……
ここで私は目を閉じた。
この先を読んでしまったが最後、子供と自分の思い出が、すり替わりそうで恐ろしくなったのだ。どちらも純粋だったからこそ、なおさらに。
 
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今日のお題は「ゆたんぽ」です。
久しぶりに趣味を詰めました( ー`дー´)キリッ
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