【100日100話】002 その花は眩しい方を向き続ける

   

 我が家のハムスターにとって、向日葵の種は年に数度しかない贅沢品だった。

「またオデブちゃんになるからねえ」

 母はそう言ったけれど、単に購入しなきゃいけないのが理由だったんじゃないかと思う。

 乾燥させたカボチャの種は、台所のジャム瓶に常備されていたから。

 御年50歳(人間ならば)である老ハムスターは、昔のたぷたぷぶりが思い出せないほどスリムになり、むしろちょっとマッチョになり、オリンピックの放映に負けじとばかりに日夜雲梯を繰り返している。カゴの柵で。

 ぼてっ。

 また落ちて、また登る。滑車になんて目もくれない。カゴの側面を梯子と使い、天井付近にぶら下がる。

 とっとっとっとっと。

 手に手に掴んでは突き進む、それはまるでどこかの特番のよう。なにを目指してか知らないが、ためらいもなく進んでは中途で落ちる。ぼちゃん。

 ――人間は、落ちたらそれでお終いだ。

 元の位置になんて戻れない。過ぎた時間はやり直せない。どんなに人生賭けたって、一度落ちたらそれでお終い。

 砕けた破片の拾い方を、私はわからないまま丸まって、じっと命をやり過ごしている。

 ハムスターがまた登る。その姿から目を離せないまま、私は丸い脚をきつく抱きしめた。

向日葵の花言葉は、常に太陽の方を向いて咲く性質のためか「あなたを見ている」だそうです。

が、望んで太陽の方を向いているのかは疑問だと思ったり。

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